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「吹雪の夜に・・・」


2016-11-20 ハリー古山  


@ 春が来た・・・


春・・・初めてやって来た外国での春!

カナダのトロントに着いて、ちょうど2週間ほどが過ぎた頃だろうか?・・・
近所の八百屋さんで買った安いバナナをぶら下げて公園に行く毎日を楽しんでいたのだったが、ようやく時差ぼけも直って少し心に余裕が出てきたように感じている頃だった。

この町に慣れるまで1か月くらいのんびりしていようと思っていたので、時間はたっぷりとあった。 その当時、隣の部屋の住人「Hさん」も無職のようだったので、彼に誘われるまま・・ある日曜日の教会に出かけて行った。(なぜ・・教会に??)

そのキリスト教会の宗派は忘れたが、とにかく「教会に行く」などという事は私にはありえない事だったし・・行く気もなかったのだが、何故かこの日に限ってその気になってしまったのだ。 そして、生まれて初めての教会訪問!(どうしたんだろう・・私??)

一応・・スーツに着こんで十字架がまぶしい建物にお邪魔したのだが、ここで偶然にAさんという若い女性に出会った。(後でわかったのだが、Hさん+男数名がAさん目当てに来ていたらしい)

確かに!・・・「ミニスカートがとても良く似合った・・魅力ある人だな〜」と、それがAさんの第一印象。
教会帰りの道で、皆で一緒に歩いて話していたら何故か気が合ってしまい久しぶりにAさんとの話が弾んだ。(出会いは・・不思議なものだ!!)

トロントの大学に留学中だと言う彼女の英語は驚くほどうまくて、ネイティブ・カナダ人のような発音で話すのでとても驚いていた。
それに比べて・・カナダに着いたばかりだとはいえ、英語がまったく話せないただのダメ男の・・私。 (あまりにも違いすぎて・・・トホホ!)
英会話がまともに出来ない私をみて、何も言わずに「英語レッスン」を始めてくれた心温かいAさんだったのだが・・・
しかし、その努力も空しく私の英語は全く使い物にならないほどお粗末だったのを知っている・・早い話、どうも私には語学能力というものがないようだ。
だから「英語は苦手!・・どうしよう?」って、いつも頭をかかえていました。

でも、そんな外国生活の初めに・・私が唯一「ほっ!」と出来る相手もいたのです。
実は、近くに住んでいたこの友人には何故か日本語で話しかけてもちゃんと通じるので心の安らぎがありました。
誰が何と言おうとも、会話は「万国共通語」でするのが一番です・・・絶対に!
初対面なのに、その友人は私が話しかけたら「ニャ〜ン」と返事をしてくれたのですから・・・この時の感動を私はずっと忘れていません。 彼は大きな体をしたオスのトラ猫でした。

カナダでも、猫は・・ちゃんと、猫でしたから・・・本当に安心しました〜。

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暫くするとトロントは春から夏に移り変わり、まぶしい緑の季節に入った・・・ 

幸運にも、出会ってすぐに友達になってくれたAさんと・・・初夏のある日、二人だけの「列車の旅」を計画していた。

目的地はトロントから列車で3時間ほどかかる「ナイアガラの滝」。 

実はその頃、ブラジルからカナダに移住した近所に住む友人夫妻(旦那さんは日本人、奥さんはブラジル日系2世の美人!)からナイアガラに誘われていたのだったが、私はAさんと一緒に行こうと思っていたので彼らにはうまく断っていた。 
やはり・・・こっそり二人だけで行くのが楽しいに決まっている。 

この日、トロント駅でナイアガラ行きのチケットを買い・・列車番号と指定席が記された列車に乗り込んで出発の時を心うきうき待っていたのだったが・・・

な・な・何と!・・・前方の通路から、見慣れた小学生の女の子の姿が!!
「えっ・・ウソ〜!」
とっさに前の椅子の影に隠れたのだが、運悪くこの子に見つかってしまった。 
私を指差して親に何か告げている・・・
(ママ!・・コヤマさんが、あそこにいるよ〜!・・とか、言ってるに決まってる) 

近くに来て・・お互いに顔が合って「えっ!・・この列車でナイアガラまでですか〜?」だった。 この人たちに誘われていたのに何てこった・・ヤバイです!
びっくりだけど、もっとびっくりしたのは・・・な・な・何と前の座席に座ったからだ。 
同じ日の?・・同じ時刻の列車で?・・同じ車両?・・おまけに前の席?
(ありえなーい!!・・いったいどういうこと?・・どうして?・・最悪〜!!) 

列車の中では、はしゃぎたい気持ちをグッとこらえてAさんとは小声で話をしていたのに・・小学生の女の子が、ひっきりなしに後ろを振り返って座席越しに私を見ては「ニタ〜」っと笑う・・・
(うわ〜・・私たちの会話が筒抜けだった)
その度に母親に注意されているが、そんなのお構いなしのイタズラ好きの娘。 
(何だよ・・こら! 俺たちヤング・カップルの世界をのぞき見するんじゃない!)
おちおち話も出来やしない・・・

こ うなると、もう絶対に二人だけにさせてはくれない・・というのが日本人の良いところか悪いところかは知らないが、ナイアガラ・フォール駅に着くと友人夫妻 が経営しているギフト・ショップの従業員が黒の大型高級車「キャデラック・リムジン」で迎えに来ていて、それに乗せられ彼らのお店とナイアガラの自宅を訪 問することになってしまった。 

ついでに「ランチも食べていきなさい・・」と言われ、美味しい昼食もご馳走してもらい・・その後は「コーヒーでも飲んでゆっくりして行きなさい・・」と、言われるままにくつろいでいる内に「君たちはどうゆう関係?・・うふふ〜」と、お決まりの尋問が始まった。
残り時間がどんどん過ぎて行き、やっと開放されて自由の身になったのは帰りの列車が出発するたった1時間前であった。 

どんなに焦っても、帰り時間は待ってくれない・・
大急ぎでナイアガラ滝の周りを見学していたら、あっという間に時間が過ぎ去って行く。 
結局、帰りの列車にはとても間に合わなくて・・急きょトロント行きの満員バスに飛び乗って帰ってくることになってしまった。 

「何てこった〜・・今日は!」
もっと二人だけの時間を楽しみたかったのに〜・・・(ああ〜・・もう〜・・くそ〜〜!)



A 吹雪の夜に・・・

この年のクリスマスが近づいた冬のある日・・その日は朝から雪が降る寒い日だったので、トロントの中心街からだいぶ離れた所にあるAさんのホームステイ先まで送って行くことに決めた。
Aさんはその頃、トロントに住んでいる親戚の家から出て・・あるカナダ人家族の家で家事の手伝いをしながら大学に通っていた。(そう言えば、あの当時の留学生たちは努力家が多かった。)

トロント中心部から北に向かう地下鉄最終駅の1つ前の駅で降り、そこからバスに乗り換えて20分ほどの郊外にその家はあった。
この辺りは私が住んでいたトロント市内からけっこう遠い所にある高級住宅地である。
こんな遠い所まで来たのは初めてだった・・たぶん1時間くらいはかかったような気がする。

路線バスの窓越しに見える家々のクリスマス・ライトが色とりどりの淡い光を放ち、周囲の雪に反射してお伽の国を旅しているような気分に浸っていた・・・

バスを降りて、雪の積もった歩道を歩くとAさんのホームステイ先きの家が見える所までやって来た。
私と一緒にいる所を見られないように私なりに気をつかい、その家の20メートルほど前でAさんとは別れて今来た道をバス停に向かって歩く。

バス停の時刻表では午後9時30分に最終バスが通る。 それに乗れば地下鉄駅まで戻れるはずだ・・と思って、一人バス停に立っていたのだったが・・・

しかしこの時から猛烈な勢いで雪が降り始め・・とんでもない吹雪になっていた!

屋根のないバス停なので、毛糸の帽子とコートに降り積もった雪をはたきながら私はずっと最終バスが来るのを待ち続けていた。 ジッとしていると靴の底から冷たい寒気が伝わってきて、足の裏が氷のようになってきた!
しかし予定の時刻を30分過ぎた午後10時になっても・・バスはやって来ない。
いったい、どうしたんだろう? こんなに遅れるなんて!・・・

時間が経つにつれ、さらに雪の量が増え・・猛烈な吹雪になった。
バスが通る目の前の道路は雪で埋もれて見えない・・とんでもない事態!
もうこうなると、いくら待ってもバスどころか車一台も道路を通らなくなってしまった。 

これは・・とても車が走れる雪の深さではない! この時、そう感じていた・・・

どこが歩道で、どこが道路なのかもうサッパリわからなくなってしまったからだ。 

彼女をここまで送って来たのは初めてだったから、この辺の地形を全く知らない私は困った・・・どうしよう?
周囲の家の明かりが消えてしまい、頼れるのは吹雪の中で薄暗く光る街灯だけ・・・

「冗談じゃない!・・どっちの方向に行けば良いんだ!誰か教えてくれ!」
(だからと言って、こんな夜にAさんのホームステイ先の家のドアを叩くわけにはゆかない・・・それは絶対に出来ない)

バス停でこのまま立っていてもしょうがないので、暗い街灯を頼りに大通りの方角に向かって雪の中を歩きだした。 ただの感を頼りに・・・
でも雪が思った以上に深く、膝まで埋まってしまうので思うように前に進めない!

このまま雪倒れになってしまうのはいやだ・・・でも、どうやって家まで帰ろうか?

そこには、静まりかえった無音の世界だけがあった・・・
車も人影もない雪国の夜・・・これが死の世界だろうか。
心細いったらありゃしない!! 

「本当にこの道でいいのか?」・・「家までどのくらいの距離なのか?」・・サッパリわからない。

激しく吹きつける雪が顔に当たり、痛さが身にしみる・・・こんな吹雪の中を歩くは初めてだった。 それに、私の服装も街中用なので・・こんな事態にはとても対応できるものではない。
次第に不安と恐怖がこみ上げてきた・・・

それを我慢して歩いていると、やっと私が知っている名前の道路が目の前に出てきたので急に嬉しくなった。 
道路標識に「ヤング・ストリート」と書いてある・・・(これで光が見えてきた!)

確か私の記憶では、この名前の道路は何十キロも南北に長く続いている道なので、この道を南に下って行けば・・きっとトロントの中心部にたどり着けるはず! 

北国の知らない町で、吹雪の夜に迷子になってしまった1人の人間がいた・・・

この淋しさを紛らわすのは自分で吹く口笛しかなかった・・・
(口笛の音を聞きながら、生きてる自分を確認したかったのかもしれない)

そこは、人も車も動物もいない・・ただ激しく雪が降り続ける静まり返った世界・・・
「真夜中の死の世界」だと・・本当に、そう感じていた。

何処に何があるのか見えなくなったので、道路沿いの歩道と思われる所を雪に足をとられながら必死に南に進んでいると・・ついに足の裏が痛くなって靴擦れと豆が出来ているのがわかった。
でもそんな痛さは無視して、目の前の目印に向かって何も考えずに無我夢中で雪の中を歩いた。
膝まで埋まってしまう雪の中を何時間も歩き続けるのは想像以上に体力を消耗する。
こんなに疲れるとは夢にも思っていなかったし、喉が渇いてカラカラにもなっていたが
その頃は自販機などないので閉店した店の軒下を見つけては、そこにしゃがみこんで雪を食べ・・休憩して、またひたすら歩き続けた。
真夜中から早朝にかけての外気の寒さは今まで経験したことのない厳しさで、その頃は手足の感覚が完全に麻痺していた。 

痛い・・とか、寒い・・とか、を通り越すと何も感じなくなってしまうから不思議だ。 
睡魔も襲ってきた・・・危ない!
ここで眠ったら・・・終わり!
とにかく・・自分を信じて、どこまでも歩き続けるしか選択肢はない・・・

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夜の10時に歩き始め、家にたどり着いたのが朝の5時過ぎ。 
7時間も吹雪の夜をさ迷い続けて、ついに帰ってきた。

今度だけは本当にダメかと思った・・・
「頑張ったな〜・・・俺!」 やれば出来るんだな〜・・人間って。

ただ、猛烈に疲れた!! もう一歩も前には歩けない・・・
死ななくて本当に良かった〜と思った。 

部屋に着いて自分のベッドに倒れこんだ後の記憶は何も覚えていない。
気がついた時は、もう昼の12時を過ぎていた・・・

翌 日は体中が痛くてすぐには起き上がれなかった。靴下を脱いで足を見ると・・水ぶくれ、靴擦れ、(そして凍傷もかな?)で醜いほど腫れて出血もしていたの で、自分で両足にぐるぐる包帯を巻くしかなかった。 そして数日間は靴が履けず、外出も出来ない不自由さを味わっていたのを覚えている。 

雪国の知らない町で一人取り残されたとしても、冷静になって、今すべきことは何か?を考えて行動したのが良かったのかもしれない。
いつの時でも、信念とか・・自信とか・・そういうものは私の中に1つもない。
でも、小さなアイデアを1つ実行すると勇気が出てきて、自信なんかないけれど、もっと前に向かおうとする力がどこからか湧いてくるから不思議だ・・・

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年が明けて、春が来て・・Aさんはカナダでの留学を終えて日本に帰っていった。
Aさんとの出会いは言葉で表せないほど嬉しかった・・・
もうそれ以上は・・・何も語れない。

過ぎ去った過去を思い出すと、自分の行動の中でバカな記憶は山ほどあるけれど・・何も後悔はしていません。 
私としては、その時・・・精一杯の事をしてきたと思うのです・・・今の自分にたどり着くためにね。 だから、すべては必要だったんです。

皆さんも経験があるかもしれませんが、若い時って・・未熟なところだらけです。
どうしようもないほど、青いリンゴなんですよね。 
もし、何歳になっても青いリンゴのままでいたら酸っぱくて食えたものではありませんから、注意をしましょう・・・
で・・「私の今はどうか?」と言うと、この歳になっても未だに熟(う)れてはいません。
まずいリンゴのままです。すいません・・・本当ですから。

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いつものように・・日は東から昇り、西に沈む・・・
そんな日々を何万回も繰り返しながら、人は皆・・今ここに生きている・・・


時間は自由に流れ・・人の心も姿も変わる。
人間にとって、それが「生きている」という証なのかも知れない。

カナダのトロントは寒い北国でした。 
でも北国は寒さの代わりに、人の温かさを無限に感じた所です。

この惑星にも宇宙人と同じようなフィーリングを持った人がいて、時々めぐり合います。
人との出会いを通じて学びあえる事は、この惑星でも他の惑星でも同じことですから。

太陽がないと、人は生きて行けません・・・地球だってそうです。
今まで、私が出会った宇宙の友人たちは・・・誰もが太陽のように輝く「サン・シャイン」だったような気がします。

だから、私もそんな人になろう・・・と、いつも夢見てはいるのですが!

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